「ことばの力」(川崎洋)

言葉のキャッチボール

「ことばの力」
(川崎洋)岩波ジュニア新書

近年、私の住む地域の
中学生の話す言葉が、
とてもきれいになってきていると
感じます。
たまに見るテレビのドラマなどの
若者の言葉がぞんざいなのに対し、
私の周囲の子どもたちの言葉は
かなりしっかりしているのです。
小学校での指導が
行き届いているのでしょう、
悪口の類いがきわめて少ないのです。

素晴らしいことなのですが、
気になることもあります。
ちょっとでも刺激のある言葉や
きつい口調で言われると、
子どもたちは簡単に
心が折れてしまうのです。
言った生徒には悪意はなくても、
言われた生徒は
「悪口を言われた」「いじめられた」と、
大きなショックを感じてしまうのです。

もちろん、受け取る側の感じ方を
100%尊重しなければいけない
時代ですので、
お互いの誤解を解く指導をしながら、
「言い方には気を付けようね」と
指導することになります。
しかしその結果、お互いの会話が萎縮し、
伝えたいことが伝わらなくなっている
様子が見られるのです。

本書には、
そうした「悪口」についての一節があり、
考えさせられました。
「悪口」には、明らかに悪い「悪口」と、
そうではない「悪口」とがあると
著者は述べます。
そして、「悪口」には
実に豊かな表現があるというのです。
明治の文豪、泉鏡花や徳田秋声、
樋口一葉、夏目漱石等の
作品に見られる「悪口」を列挙し、
そのことを解説しています。
特に夏目漱石の「悪口」の語彙の
豊富なこと。
そうか、「悪口」表現も、
実は日本語の彩りの一つだったのか。

著者は「悪口」について、
「会話は、言葉というボールの
 キャッチボールにたとえられます。
 悪口の言い合いは、
 グローブをはめていても
 手が痛いほどの強いボールの
 投げ合いに似ています。」

と結んでいます。

私たち大人は、子どもたちの
言葉のキャッチボールに対して、
「ゆるく優しいボールだけを
 投げるようにしよう」

と教えるのではなく、
「相手のことを考えながら、
 正確にボールを投げよう、
 そしてどんな球でも
 しっかり受け止められるように
 練習しよう」

と教えるべきものなのかも知れません。

この「悪口の息づかい」は、
10ある章の1つです。
他の内容も魅力に溢れていて、
機会を捉えて紹介したいと思います。
詩人・川崎洋の遺した、
日本語を考える素晴らしい一冊。
中学生に薦めたいと思います。

※参考までに各章の見出しを。
 「あいさつのことば」
 「おどろいたとき」
 「悪口の息づかい」
 「ユーモアのアンテナ」
 「うれしいときと悲しいとき」
 「愛のことば」
 「電話でしゃべるとき」
 「方言による表現」
 「自分の考えを伝えるとき」
 「?」

(2019.10.9)

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